クレヨンしんちゃんの映画を観ていると、たまに子ども向けとは思えない要素が含まれていることがありますよね。
そんな映画のひとつ『オトナ帝国の逆襲』は、名作と語られている作品です。
今回は、あらすじや登場人物はもちろん、作中のクライマックスであるひろしの回想シーンについてファン歴20年近くの筆者がお話していこうと思います。
また、この作品の登場人物に対してしんのすけが与えた影響とは?
私はこの作品の内容は特に大人にこそ観て欲しい内容だと感じました。
重要なファクターでの1つであるニオイがどのように作用するのか、たっぷり語っていきます。
オトナ帝国の逆襲/考察 ~ひろしの回想シーン編~
この作品の1番印象に残るシーンとしてあげられるひろしの回想シーンですが、私はこの場面について彼の心の葛藤を描いているのではないかと感じました。
大人たちは精神が子供に戻ってしまい、今の生活を放棄して20世紀博で遊ぶ日々に明け暮れてしまいます。
最初は自分の子供の頃に好きだったものやイベントが体感出来て、『楽しい』『懐かしい』という気持ちが段々と現実の生活へ戻ることが嫌になってしまい、結果的に大人たちは子供になってしまいました。
回想シーンで自分が子供の姿で父親の自転車の後ろに乗るところからスタートするのはまだ20世紀博にいたいということの現れです。
やがて自分が大人になり、みさえと出会いしんのすけが生まれ・・・と今までの人生をまるで走馬灯のように振り返り、今の自分は子供ではいられない。
守るものが出来てしまったことによって大人に戻らないといけないことを思い出して正気に戻ったということです。
感動する場面であると同時に切なさも感じる場面ですよね。
当時自分が子供の頃に見た時、大人になって見た時と見方が変わるなと真っ先に思いました。
ひろしやみさえも背負うもの、守るものが出来てふとその重圧を下ろしたいという気持ちがあったから一時的に大人たち全員が暗示に掛かってしまったのだと思います。
誰しもが思う「あの頃は良かったな」「子供の頃に戻りたいな」という過去にすがりたい思いは今を生きているからこそ感じることであり、上手く折り合いをつけて生きることが大事なのです。
オトナ帝国の逆襲/考察 ~あらすじ編~
万博を訪れていた野原一家。到着の遅いひろしを待っていると、万博に突如怪獣が接近。
「万博防衛隊」である野原一家はこれに対抗し、戦闘機で万博へと向かっていたひろしは巨大ヒーローに変身し怪獣に立ち向かう-、という特撮ビデオを撮影していました。
最初見たときは本当にひろしがヒーローになって戦っているものだと思っていました。
それだけヒーローの世界を忠実に再現していたということでしょう。
この後ひろしだけでなく、みさえも子どもの頃に好きだった魔法少女になりきって撮影をします。
これらは20世紀博のメインアトラクションの1つです。
一方、20世紀博の子供ルームで顔をあわせることの多くなったしんのすけとかすかべ防衛隊は大人たちの異常な熱の入れように疑念を浮かべます。
ある日、20世紀博から
明日の朝お迎えに上がります。皆愉快に過ごしましょう。
とのお知らせがテレビで放映され、ひろしとみさえは
明日に備えて早く寝なきゃ
そうね
と何かに憑りつかれたように寝てしまいます。
このシーンはホラー映画のような雰囲気があり、冒頭で20世紀博のアトラクションを楽しむ様子との対比がより一層不気味さを引き立てます。
翌朝から大人たちは豹変し、テレビでの予告通り一斉にどこかへ連れていかれてしまいます。
一体、大人たちはどこへ行ってしまったのか、しんのすけたちは大人たちを元に戻せるのかという内容です。
オトナ帝国の逆襲/考察 ~登場人物編~
この映画の黒幕であるイエスタディ・ワンスモアという組織が登場します。
しんちゃん映画にはよくあるちょっと変な名前の組織団体です。
今回は直訳すると『あの日をもう一度』、まさに20世紀に思いを馳せる大人たちの組織の名前にふさわしいと言えます。
ケンとチャコという2人のボスが居て彼らを筆頭に20世紀博の運営もとい大人の洗脳を行っています。
ケンは長身のマッシュルームカットと丸眼鏡が特徴の男性、共犯者であるチャコは感情をあまり表に出さないロングヘアとミニスカートが特徴の女性です。
2人は20世紀に流行ったとされる服装や髪型で、21世紀に反感を持っていることを表していますね。
姿を見てもわかる通り、2人は20世紀への逆戻りを企て過去のニオイ(作中では懐かしいニオイ)を作り出し大人たちを一種の洗脳状態にさせて計画を実行させています。
どうやってそのニオイを研究して作ったのか気になるところですよね。
隊員たち全員もニオイで幼児退行しているようでエアガンなどのおもちゃを武器にしてしんのすけたちの行く手をはばむのです。
かなり大きな組織の隊員なのに使う武器がおもちゃなのは少し可愛らしいなと思ってしまいます。
オトナ帝国の逆襲/考察 ~しんのすけが与えた影響とは?~
作中のラストシーンで野原一家が東京タワーをケンとチャコを止めることで自分たちの未来を取り戻すという勝負をします。
しんのすけが与えた影響とは、過去に思いを馳せる大人たちが今を生きたくなるようにさせたことです。
敵組織の部下たちが野原一家の行く手を阻み、ひろしやみさえは最終的にしんのすけにその勝負の行方を託す形になり、家族の想いを背負って身体がボロボロになっても走る事を止めないしんのすけの姿が印象的です。
20世紀博の住人たちは、野原一家とイエスタディワンスモアの対決はテレビでそういう企画をやっているような程度のものだったのがいざ見てみると「家族が何かと戦うことを一生懸命頑張っている」様子に目が離せなくなります。
それに心を揺さぶられ、ふと今自分が置かれている状況を思い出すことで結果的に昔のニオイのレベルが急激に下がっていきました。
私もこのシーンはしんのすけの懸命な姿に涙を流しました。
その証拠にしんのすけがケンとチャコの足にしがみついてスイッチを押すことを止めようとしていた時には住民たちは野原一家たちの様子を皆が見て、泣いていました。
しんのすけが未来に絶望していたチャコに問われていた時も純粋に家族と一緒に今を生きていたいという気持ちをしんのすけらしい切り返しで伝えていたこともこの子たちから未来を奪うなんてしてはいけないと思わせたのだと感じます。
オトナ帝国の逆襲/考察 ~ニオイがキーポイントとは?~
作中内でイエスタデイ・ワンスモアのボス・ケンが開発したとされる『過去のニオイ』。
これを嗅いだ大人たちは子供返りをしてしまったのです。
この気持ちは私も共感出来ます。
上京したての頃、雨の匂いを嗅いでふと地元を思い出し、寂しくなりました。
それだけニオイというのは人の記憶に作用するのですね。
その対比として『今のニオイ』にあげられているのはひろしの靴下の臭いです。
子供の頃見ていた時は単純に靴下の臭いが強烈過ぎて洗脳が解けていたと思っていました。
ですが、大人になって改めて考えた時に『過去のニオイ』と対になるものが大人になった自分が生きている時代を象徴とするニオイ、イコール『自分(ひろし自身)の靴下のニオイ』という解釈に至りました。
その2種類のニオイの間で葛藤する場面がよく見られるのは野原家が夕暮れの街中をトラックで走り、出口を探す場面です。
運転しながら前に移る景色(プラス過去のニオイ)を見て号泣して今にもまた洗脳状態になりそうなのを自分の靴下のニオイで何とか正気を保とうとしています。
絵面だけ見るととてもシュールですが、それだけ視覚と嗅覚にアプローチを掛けた攻撃であるといえます。
オトナ帝国の逆襲/考察まとめ ~これは大人にこそ観て欲しい映画!~
今回はオトナ帝国の逆襲の考察をしていきましたが、まとめると・・・
この映画を子どもの頃に見たことがある人、まだ見ていない大人にこそ観て欲しい映画ということです。
大人になって今を必死に生きているとふと子供の頃に思いを馳せてしまうなんてことも多々ありますよね。
私は子供の頃に見ていたキラキラとした景色もそれは自分の中のアルバムにしまい、今現在辛くてもその中で何かキラキラとしたものを見付けられるようになりたいと感じました。
子供の頃も大人の今もそれぞれの良さを見付けて自分なりに生きていこうと思えるような内容です。
ぜひ、モーレツオトナ帝国の逆襲を見てみてくださいね!
ここまでみていただき、ありがとうございます。